ないことを証明することができないわけではないとして、じゃあどうやるんでしょうか?
白いカラスが実在しないことを確認するためには、カラスを全部連れてきて確認するしかないんじゃないの? という疑問がありますよね。それは間違いではありません。たぶん、そのケースだとそうするしかなさそうです。
しかし、そのような全件検索以外の方法でも、非存在を証明できる方法というのはありまして、それが背理法です。
■最大の素数が存在しない証明
数学では、最大の素数というものが存在しないことが証明されています。
仮に、最大の素数が存在するとしましょう。とりあえずその最大の素数をnとでもしておきます。そして、2からnまでのすべての素数の積をNとしておきます。
では、N+1はどんな数で割ることができるでしょうか。Nはすべての素数の倍数ですので、2からnまでのどんな素数ででも割れます。だからこそ、N+1は2からnまでのどんな素数ででも割りきれません。
ということはN+1もまた素数なのです。しかも、定義上、nよりも大きな素数です。ではN+1が最大の素数かと言えば、2からN+1までのすべての素数の積をMとでもしておけばM+1も素数ですので、これは無限に続きます。
このことは、最大の素数が存在するという仮定に矛盾します。そして、これまでの考えの中で、間違っていそうな考え方はありませんでした。この仮定以外は数学として認められている考え方なので、このような矛盾を引き出してしまった理由は、この仮定のせいです。
よって、この仮定の否定が証明されたこととします。
すなわち、最大の素数は存在しないことが証明されたことになるのです。
■背理法
いきなり数学の話をされて目が滑ったかもしれません。もうちょっと日本語でわかりやすく説明しましょう。
存在すると仮定すると矛盾が引き出される場合、存在しないことの証明としてよいというのが背理法です。ただし、扱いは難しいのです。仮定が複数あったら、どの仮定のせいで矛盾したかが分かりません。ですので、背理法を使うためには、信頼の置けない仮定は一つしか使えません。残りみんな信用できるなら、否定されうる仮定は一つだけですから。
議論において、「非存在証明はできない」という逃げ口上を封じられるのは大事なことです。多くの人は、他人に証明を押しつけて自分はけちをつけるだけになりがちです。ところが、非存在証明が原理的に可能となれば、「悪魔の証明だから」では逃げられなくなります。ぜひ、覚えておいてください。